医療薬剤学

研究室紹介

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研究室の概要

顔写真江頭 伸昭 教授

医療現場では治療や検査などのために医薬品が汎用されますが、一方で医薬品の副作用により、患者さんのQOL(生活の質)が低下したり、治療が中断したりする場合があります。このため、医薬品の副作用対策は大事な課題ですが、発現機序は明らかになっておらず、有効な予防?治療法が確立されていない場合が多くあります。そこで私たちは、臨床現場で起こる様々な副作用に対して臨床調査(要因解析)による対策の提案や、基礎研究による発現メカニズムの解明に基づいた対応策の構築を行っています。
 一方、薬は量が多すぎると副作用が出やすくなり、少なすぎると期待した効果が得られません。このため、薬の代謝や排泄に関わる肝臓や腎臓の働きに応じて薬の量を調節する必要があります。特に、新生児や小児は、体の成長や臓器の発達を考慮して投与量を決める必要があります。私たちは、臨床で得られる薬物血中濃度、検査値、効果や副作用を薬物動態/薬効動態解析に基づいて定量的に評価することで、年齢や疾患などの患者背景に応じた薬剤選択ならびに適正な投与量設計法の開発を行っています。
このように当研究室では、臨床現場での問題や疑問に対して、基礎から臨床まで幅広く研究を行い、医薬品の適正使用法の確立を目指しています。

研究においてポイントとなる単語?言葉

副作用対策、医薬品適正使用、ファーマコメトリクス、治療薬物モニタリング(TDM)、個別化投与設計、神経障害、漢方薬、緩和ケア、サイコオンコロジー、大麻、内因性カンナビノイド

教育の内容

薬剤師は、チーム医療において患者の立場に立った有効で安全性の高い薬物療法の提供に貢献することが求められています。このため薬学生は、専門的知識?技能の修得とともに、問題発見?解決能力やコミュニケーション、協調性、責任感などを身につけることが大事です。そこで、私たちは、講義?実習や普段の研究活動を通して、学生がこれらを身につけられるように心がけ、豊かな人間性と主体性を備えた、次の世代を担う有能な医療人の輩出を目指していきたいと考えています。
適正な薬物療法を推進するための知識?技能の修得のため、以下の講義を担当します。

社会薬学Ⅲ

医薬品等に係わる法規範、特別な管理を要する薬物等に係わる法規等の知識を修得します。

臨床感染制御学

臨床薬剤師として求められる感染症、ならびに抗菌薬?抗真菌薬?抗ウイルス薬の知識を修得すると共に、院内感染対策チーム、抗菌薬適正使用支援チームにおける薬剤師の役割を学習します。

臨床コミュニケーション

医療人として必要な臨床心理学、コミュニケーションスキルについて、患者指導、緩和ケアといった様々な状況での実践方法を修得します。

臨床薬剤学Ⅰ、Ⅱ

薬物動態学の基礎知識に加えて、より実践的な投与設計や薬物動態の個体差に関わる要因を学習することで、医療現場における薬物動態学の活用方法を修得します。

研究の内容

医薬品の副作用対策に関する研究

医療現場では医薬品による様々な副作用が問題となっていますが、発現機序は明らかになっておらず、有効な予防?治療法も確立されていない場合が多くあります。私たちは、医薬品による副作用の発現機序の解明と予防?治療法の確立を目指して研究に取り組んでいます。これまでに抗がん薬による血管障害や末梢神経障害、シスプラチンやバンコマイシンによる腎障害などの発現機序の解明や対応策の提案を行ってきました。私たちは、基礎研究や医療ビッグデータなどを活用しながら、医療現場で問題となっている副作用の予防?治療法の確立を目指し、有効で安全性の高い薬物療法の提供に貢献していきたいと考えています。

薬物動態モデルを用いた抗菌薬?抗真菌薬の個別化投与に関する研究

ファーマコメトリクスとは、薬物動態や治療効果を数理学的なモデルで表現し、そのモデルを用いて体内の薬物濃度や治療効果を定量的に予測する手法です。私たちは、このファーマコメトリクスの手法を臨床で活用し、患者さん一人ひとりに合わせた投与量を提案するmodel-informed precision dosing(MIPD)に注目しています。ファーマコメトリクスの手法を用いることで、大人だけではなく、小児や新生児においても適正な投与量設計が可能となります。私たちは、MIPDに基づいた抗菌薬?抗真菌薬の個別化投与法を確立し、感染症の治療向上ならびに副作用の回避に向けた研究に取り組んでいます。

薬物血中濃度測定法の開発と至適投与法の確立に関する研究

治療薬物モニタリング(TDM)は、有効治療域が狭い薬剤や個人差が大きな薬物を対象として、患者さんの薬物血中濃度を測定し、用量調節を行う手法です。私たちは、医療現場で必要性が高いと判断された薬物について血中濃度の分析法を開発し、治療効果や副作用と血中濃度の関連性について検討することで、医薬品の適正使用に役立てる研究に取り組んでいます。

漢方薬の薬理学的エビデンスに関する研究

世界で初めて全身麻酔下での手術を成功させたのは、江戸時代後期、紀伊国(現在の和歌山県)の華岡青洲です。青洲は漢方医学を学び、全身麻酔薬として曼陀羅華(まんだらげ、チョウセンアサガオ)などを構成生薬とした麻沸散(通仙散)を開発し、乳がん摘出手術を成功させました。その当時、ヨーロッパではまだ麻酔をして乳がんの手術は行われていなかったので、このような患者の耐え難い痛みを解決した麻酔下での外科手術は歴史上画期的なことであり、近年の外科手術の発展に大きく貢献しました。現在、日本では多くの漢方薬が保険適用され臨床現場で汎用されています。漢方薬は、長い歴史の中で植物や動物などを原料とした生薬の組み合わせなどが工夫され薬となったものですが、効果や薬理作用については十分に分かっていません。また、漢方薬は複数の生薬が配合され多くの成分を含んでいることから、様々な病態に対して未だ明らかになっていない効果を有する可能性もあります。私たちは、漢方薬の効果に関する薬理学的エビデンスの構築に取り組んでいます。

がん医療における「心」の研究(サイコオンコロジー)や緩和ケアに関する研究

がんは日本人の2人に1人が生涯のうちに罹患する病気ですが、がん患者の多くは不安や不眠などの精神的問題を抱えており、その約半数は、うつ病や適応障害などがあると言われています。また、がんの症状による痛みや、がん治療に伴う痛み(末梢神経障害、皮膚障害など)や苦痛(悪心?嘔吐、脱毛など)など、様々な身体的苦痛を多くのがん患者は経験します。私たちは、がん患者の精神的?心理的苦痛や身体的苦痛に関する研究、精神的?心理的因子のがんに及ぼす影響に関する研究などを推進し、がん治療をサポートしていきたいと考えています。

大麻成分や内因性カンナビノイドに関する研究

大麻(カンナビス、マリファナ)は、60種類以上のカンナビノイドを含む世界で広く乱用されている薬物で、日本では大麻取締法によってその使用は厳しく禁じられています。しかしながら、大麻乱用者は絶えず、わが国では若年層で増加しており、大きな社会問題となっています。その反面、大麻は長い間薬として使用された歴史もあり、日本では1951年まで日本薬局方に印度大麻として収載され、鎮痛?麻酔薬として取り扱われていました。そして1988年に脳内カンナビノイド受容体が発見され、それに続き内因性物質も発見されて、様々な生理作用が明らかになると、再び大麻やカンナビノイド類縁物質を用いた治療や創薬活動が活発になってきました。最近、日本でも大麻製剤を医療用として承認する動きが進んでいます。実際、海外では大麻成分の製剤が抗がん薬の副作用(吐き気や食欲不振など)の軽減や難治性てんかんの治療薬として使用されています。また、内因性カンナビノイドは、神経因性疼痛、がん、肥満、うつ病、てんかんなど多数の疾患に関与すると考えられています。私たちは、様々な病態モデルに対して大麻成分の効果や内因性カンナビノイドの役割を明らかにして、疾患に対する新しい治療戦略の提案を目指したいと考えています。

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